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  DYNACO PAT-4

ある日、知人より緊急連絡が
「DYNACO PAT-4を知り合いに修理を頼んだが
戻ってきたらPHONOから音が出なくなってた。
苦情を言ったら、古くなって修理できないと買替を勧められた。
でも納得出来ないので、なんとか修理して欲しい。」と電話が入りました。
それは酷い話ですね、必ず修理して生き返らせますよ。


 待ちきれないのかオーナーが持参してこられました。
 レコードが聞けなくて寂しいそうです。
 はいはい、急いで修理しますよ。早速、修理開始しますから。

 DYNACO PAT-4修理前の状態です。
 ふーん、組み立てキットを誰かが作ったようですね。


修理前のPCBユニットです。
チャンネル当たりトランジスタが4個しか無い!
そしてラインアンプには放熱器が付いてます。
うーん、ソリッド抵抗のオンパレードですね、
そしてカップリングはケミコンのようです‥。
しかし見ただけでは悪いところは見当たりませんでした。
 電源を投入しPHONO1入力端子から信号を入れOUTPUT1の出力を見ます。
 知人は、レコードプレーヤー使用がメインですから。
 さて、リアパネル印刷は電源電圧120Vと書かれていますけど、
 知人宅では普通の100Vです。だから100Vにて確認しましょ。
 おや自照式電源スイッチのはずが普通のシーソースイッチですね。
 そして電源コードが劣化してます。なんと部分的に心線が見えてます!
 こりゃ危険だ、必ず交換しなきゃ。
 スイッチオンするとヘッドフォン出力ジャック穴が緑に光りました!
 こりゃ奇麗!でもジャックが挿せないじゃん。
 それでは動作確認しましょう。
 PHONO入力から信号を入れて、OUTPUT端子の出力を見ます。
 むむむ、Rchの出力が出ない。Lchは?こちらは出力が出るよ、なるほどね。
 TUNER入力からOUTPUT出力では、左右とも正常です。
 では電源電圧を120Vにすると如何でしょう?
 はい、PHONO-Rch出力が復活、やっぱり120V仕様でしたね。
 電話して確認すると電源スイッチは、例の知り合いが交換したそうです。
 でも交換するまでは普通に使用できてたらしい。
 ふーん、修理不良の疑いが濃くなってきたぞ‥。
   マニュアル入手! 
 組立マニュアルが入手出来たので性能仕様を調べました。
 なるほど1970年発売、46年前なんです!
 やっぱりチャンネル当たりトランジスター4個?
 そして出力インピーダンス600Ωに対応だって。本当かな?
 回路図を見ると確かにトランジスター4個しか載ってません。
 イコライザーアンプ、ラインアンプも、2石直結回路でした。
 イコライザーは、RIAAとNABに対応、高出力カートリッジや
 セラミックカートリッジもOKだって。
 そしてラインアンプ終段の負荷抵抗が620Ωですって!
 確かに600Ωに対応だわ!でも熱くなるよ。放熱器が必要な訳だ。
 概略性能は、
 SN比 PHONO 70dB, TUNER 85dB以上, 高調波歪 0.05%以下(2V出力時)
 ところで専用部品はありませんね、良かった。
最初に、電源電圧を確認しました。
@整流直後(マニュアル)52V、(100V) 43V、(120V) 52V
A220Ω後 (マニュアル)38V、(100V) 28V、(120V) 37V
B3.3kΩ後(マニュアル)17.5V、(100V) 8.3V、(120V) 11V
3.3kΩ後の電圧が異常に低い、これはおかしいぞ。
220Ω3W+700uFケミコンでリップル除去1段目です。
ここからラインアンプに電源供給します。
3.3kΩは、2段目のリップルフィルターで
イコライザーアンプ電源用です。
此処で電圧低下してるのでアンプが動作しないのです。
原因は?
追加LEDでした!たった1mAなのですが被害甚大でした。
LEDを外すと電圧はAC100V時で12Vまで回復し、
イコライザーアンプもなんとか復活。
確かに100Vでも使用可能なんですね。

これで不具合原因が判明しました。
電源電圧100Vにて、性能を測定しました。
もちろんLEDは外しています。
 性能測定結果(L/R)電源電圧100V
 ゲイン PHONO→TAPEREC:34.4dB/34.2dB(1kHz)
     TUNER→OUTPUT1:17.0dB/17.0dB(1kHz)
 THD+N PHONO→TAPEREC:0.14%/0.14%(1kHz 入力10mV)
     TUNER→OUTPUT1:0.076%/0.074%(1kHz 入力500mV)
 SN比  PHONO→TAPEREC:70.5dB/57dB(1kHz 入力10mV)
     TUNER→OUTPUT1:77.0dB/80.5dB(1kHz 入力500mV)
 クロストーク(逆チャン出力1V)
  PHONO→TAPEREC:64.5dB/64.9dB(100Hz)
          76.0dB/77.9dB(1kHz)
          73.0dB/75.5dB(10kHz)
  TUNER→OUTPUT1:44.6dB/44.5dB(100Hz)
          49.4dB/46.5dB(1kHz)
          29.5dB/29.0dB(10kHz)
 許容入力(1kHz THD+N 1%)
  PHONO→TAPEREC:84mV/85mV
  TUNER→OUTPUT1:1070mV/1100mV

イコライザーは、まずまずの性能で実用上問題無さそうです。
しかしラインアンプは、「ダメ」ですね。
クロストーク性能が悪く音像定位がボケます。
SN比も不十分で細かいニュアンスが聞こえないのでは困ります。
イコライザーアンプ性能を殺してしまってますね。

そう言う訳で、修理だけでなくて大改造を計画しました。
モチロン、オーナーの了解を得てから着手です。
電源回路を100V仕様に改造と性能強化、および劣化部品の交換です。
電源仕様変更  AC100Vが正規となる電源回路改造
基本性能向上  SN比とクロストーク改善(特にラインアンプ)
老朽部品交換  抵抗、コンデンサ類
PCBユニットから部品交換を始めました。
カップリングコンデンサはケミコンからフィルムに、
ソリッド抵抗は全て金属皮膜抵抗、酸化被膜抵抗に、
そして他のケミコンも全数交換です。
位相補正コンデンサは元気なので継続使用です。
そしてトランジスタをBC109Bから2SC945に交換しました。
最後に半田付けを全部やり直して表面清掃しました。
信号インピーダンス4.7kΩでローノイズトランジスタは
NPNでは意外と少なく2SC945採用となったのでした。
部品交換前後のPCBユニットを比べてみてください。

そして途中で思いついたのですけど、
今時ではテープヘッド用NABイコライザーは不要です。
そこでRIAAカーブ対応に変更してPHONO2を新設します。
さあ、次は電源回路改造です。
マニュアルによるとラインアンプには38V、
イコライザーアンプに17.5Vが
供給できれば良い訳です。
オリジナル回路では、整流直後の直流52Vから220Ω
と700uFのCRフィルターでリップル除去して
ラインアンプに供給し、更にもう1段3.3kΩ+700uFの
フィルター経由でイコライザーアンプに供給してます。
そしてAC100Vでは、整流出力電圧が43Vになります。
もちろんAC120Vでは規定電圧52Vになります。
電源トランスを交換すれば終わりですが、それでは
リップル除去率不足は治りません。100Vでも120Vでも
整流直後のリップル電圧は約2.4Vp-pです。
220ΩのCRフィルター後でも、約20mVp-p残ってます。
なおイコライザーアンプ電源17.5Vラインのリップルは
雑音に埋もれて検出不能でした。

さて問題はラインアンプです。
2段シングル構成なので電源雑音が出力に漏れます。
そして電源回路に信号が通るので、
電源インピーダンスが大きいとクロストークが悪化します。
700uFの100Hzでのインピーダンスは2Ωぐらいで、
コレクタ負荷抵抗620Ωに対しては結構大きいし、
更に周波数が下がると、もっと大きくなり20Hzだと
12Ωにもなります。
これでは低域でのセパレーションが悪化する訳です。
(高域は別原因でしょうけど‥)

そこで考えました、電源AC100での整流直後では42V、
必要電圧が38Vなので、安定化電源回路を働かせる
余裕がありそうです。ただし最低でもAC95V程度は
動作保証しなきゃ実用性が無いので、39Vまで
動作する電源回路が出来ればトランスは交換不要。
でも、さすがに1Vの電圧差では、リップル電圧重畳を
考えると無理です。スイッチング電源なら十分に
可能ですけど雑音対策が大変なので除外します。
なんといってもプリアンプですからね。

そこでラインアンプ電源電圧を35Vで我慢して
もらう事にしました。
イコライザアンプは、17.5Vをキープです。


安定化電源回路は、低ノイズと信頼性を重視します。
整流はファースト・リカバリーダイオードを使います。
基準電源は、CRD+ZD+温度補償Dの組み合わせ。
トランジスタ2段のダーリントン接続した直列制御ですが、
誤差増幅無しでオープンタイプにしました。
イコライザーアンプには、左右独立したCRフィルターです。
シンプルにして故障無く長期間頑張ってもらいましょう。
パワートランジスタ放熱器は必要ないのですが、
取付金具兼用アルミ板に取付けて長寿命化を狙います。
これで間違ってAC120Vを供給しても大丈夫です。

早速、部品を集めて電源ユニットを組み立てました。
ブロックコンデンサを撤去して詰め込むので
50x70のガラエポ・ユニバーサル基板に組み、
同サイズの放熱板兼用アルミ板に積み上げる2階建てとします。
簡単な回路なので数時間も掛からず組立終了しました。
単体動作試験も無事に終了してユニット完成です。
ラインアンプ電源の残留リップル電圧は0.7mVぐらい、
出力インピーダンスは1Ω以下です。
 


改造したPCB関係を組み込む前に、電源コードとヒューズホルダー交換を行いました。
ヒューズホルダーはネジが固着してヒューズが交換できません。
しかしUSA規格らしくて日本製ホルダーは取付穴加工しなきゃ付けられません。
リーマーでゴリゴリと広げて回り止めの切れ込みを鑢で付けました。
ところで下手な半田付けですね。電源回路だけでも「からげ半田」にしなきゃ!
とにかく交換終了、やっとPCB取付に掛かれます。
まずブロックコンデンサを撤去します。
次にLch/Rch増幅PCBを取付て新規の電源回路を取付ます。
ユニット間の配線とパネルへの再配線も出来上がり。
では、もう一度誤配線の確認、大丈夫正常です!
電源の主要部分に監視用の電圧計を繋いで電源投入!
整流出力、35V、17.5Vともに問題無し。
各アンプのトランジスタ端子電圧も設計どうりでした。

ところで交換した部品はこんなにありました!
 
   性能測定 

カバーを付けて性能測定を行います。性能改善は出来ているか?
ラインアンプのSN比は狙い通りに大きく改善出来ました。
イコライザーアンプの改善度合いは約3dBですが、ほぼ予想どうりです。
クロストーク改善は?
電源性能向上で100Hzと1kHzは改善できましたが、10kHzが改善不足でした。
やはり配置配線の見直しが必要です。
内部をじーっと睨んで配線不具合を探しました。
その結果、2箇所を見直して改善しました。
@トーンコントロール配線を左右離す、特にTREBLE回路です。
 ボリューム配線は3本とも信号ラインで3心シールドを使うと
 動作が狂ってボリュームセンターでフラットになりません。
 仕方なく3本を出来るだけ密着させ左右配線を離す線処理だけで済まします。
Aバランスボリュームから、ラインアンプまでの配線をシールド線にする。
 これが一番効果が出ました。
 この改善によりチャンネルクロストーク-30dBぐらいが-50dBまで良くなりました。
 





 歪率特性は、2段直結シングルアンプの特徴が良く出てます。
 V字型カーブで、小出力時は雑音主体、中出力以上では2次歪主体です。
 またイコライザーアンプで10kHz最大出力が減少してますが、
 高域にて負荷が重くなるのと負帰還量が減少する為です。
 でも単体で見れば決して悪くない性能ですよ。
 だってプリアンプから1Vを超える出力は必要無いですからね!
 そしてPHONO入力からOUTPUTまでの総合性能を見ます。
 出力電圧を1V一定にして測定した歪率の周波数特性は
 周波数に関わらず低歪を保っています。普通の使用状態では問題ありません。
 結果的に、電源改造は大成功でした!
   修理完了と試聴
 オーナーが困っているので大急ぎで修理しました。
 幾つか課題は残っていますが通常使用上では問題無いので納品しました。
 修理完了の翌日、オーナー宅に設置して試聴確認を行いました。
 ターンテーブルはトーレンス、カートリッジ オルトフォンMC20、
 パワーアンプはQUAD 44、スピーカーはAR LS5です。
 順調に歌い始めました!よしよし、良かったね。
 オーナーも御機嫌です。「復活したのではなくて、全く違うアンプに生まれ変わったね!」
 そうなんです、プリアンプの良し悪しは70%以上ラインアンプで決まるのですよ‥。
 今までは、可哀そうにPAT-4にとって条件が悪すぎました。
 これからは、のびのびと頑張って頂戴!と思って帰途に着きました。  

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