ヤマナカ技研 寝屋川の真空管アンプ専門店



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  Mcintosh C20


「Mcintosh C20が不調で、何処に修理を頼んでも直らないので何とかしてほしい。」
と電話が入りました。
はい、お任せください。必ず修理して生き返らせますよ。
先ず、どんな症状ですか?。
「ボリュームを廻すとガリガリ言うし、右側から音が出ない。」
了解です、ボリューム故障のようですね。
とりあえずボリューム交換が必要なので手配します。
また一度お邪魔して症状確認させてください。
 某日、オーナー宅に伺いました。
 システムに入れて音出しすると、大きなハム音が!
 ボリュームを絞っても変わらず出てます。おまけに酷いガリ音です。
 とりあえずガリを我慢してレコードを掛けてみます。
 右チャンネル音量が異常に小さい!
 バランスボリュームを一杯に廻しても駄目でした。
 PHONOだけでなくTAPE、TUNER、AUXの全入力でアンバランスです。
 ウッドカバーを開けて見るとメインボリューム付近は酷い状況です。
 そして内部は誰かの修理跡で劣悪な半田付け箇所が山ほど有ります。
 これでは現場修理は出来そうにないので、お預かりすることにしました。
 なおオーナーから、外観変更は厳禁だが内部はオリジナル部品には拘らない、
 Mcintoshらしい音質で正常に使用出来るようにしてほしい。
 と修理改造の了解を貰いました。


工房に持ち帰って修理を始めます。
ウッドケースと前面パネルを外して
ハラワタを見せてもらいましょう。
 さあ、もう一度内部確認して見ましょう。
 @修理跡が多数(しかも中途半端)
  ・部品交換されている。一部の結合コンデンサ バンブルビー→VITMIN Q
  ・ヒーター回路にケミコン追加 4700μF/25V 出力電圧が上昇し100Vでも規定電圧が出るように?
  ・部品接続が切られて放置されている。EQ回路39PF、TONE回路0.047μF/200V
  ・ネジ欠品多数 真空管台座、配線基板、化粧板止め、シャーシ⇔木製ケース
 A各部の電圧確認(電源電圧は117Vが必要!)
  ・B電圧が低い 整流直後260V、規定電圧は330V
  ・ヒーター電圧は11.6V (ほぼ規定電圧)これは改造の為
  ・V6(12AX7, 最終段カソードフォロワ)の片側が不良
 
 これは酷い状態ですね。誰がやったのか、
 中途で投げ出したような半端状態じゃないですか!
 複数の業者さんに盥回しにされたのかもしれませんね。
 
   修理開始 
 最初にメインボリュームを交換します。
 4連ボリュームに、電源スイッチまで同軸です。
 純正部品が手に入って良かった。こんなのは国内で手配不能です。
 それにしても草臥れた状態です。クッションもボロボロですし、
 被覆が剥けた銅線が端子に芋半田?こりゃ素人作業だね。
 とにかくボリュームを取り外します。配線を外してナットを緩めると
 ばらばらになって崩れました‥、相互のカシメが緩んでいたようです。
 新しいボリュームに付替えます。問題無く取付完了、純正だもんね。
 でも‥?なぜか元のツマミが付きません!
 シャフト形状が違うんです。元はギザギザ山が刻まれたシャフトなのに
 新しいボリュームはのっぺらな円柱で一部がフラットな形状なんです。
 純正の筈なんだけど、仕様変更されていました。うーん‥。

 そして片足が切断されて放置されているコンデンサを半田付け。
 EQ回路の39PF(Lchは正常でした)と、
 TONE回路の0.047uF(2個とも測定すると容量抜けだったので交換)
 
 さて目視確認による第1段階の修理は終わりました。
 これから本格的な動作確認を始めます。
修理 第2弾
C20は、電源電圧117Vです。100Vでは正常動作は望めません。
この対策には昇圧トランスを別途手配しましょう。
さて、117Vを供給して動作確認を始めます。
@電源修理(その1)
ボリューム最小でもPRE出力端子には2mV程度のハムが出ます。
そこで電源を調べると整流直後でリップル電圧が90V以上!
ブロックケミコン容量抜け(40+40μF/350V)です、交換。
リベット止のツイストロック取付金具を撤去して
普通のバンド金具にて交換部品を付けました。
そして念の為、整流菅6CA4の最大規格を確認しておきます。
最大容量は50uFなので47uFは安全圏内です。
これで整流直後のリップル電圧は3.3Vrms、
出力端子の残留雑音は0.2mVになりました。
A電源修理(その2)
ヒーター回路改造を正規状態に戻します。
追加ケミコンを撤去し老朽化で容量抜けのブロックコンを交換。
これもツイストロックソケットを撤去して交換です。
10Wセメント抵抗は表示値2Ωですが実測3Ωでした。
単純交換ではなくて4Ω10W2個パラで温度上昇低減を期待します。
そしてケミコン端子に直付けだったセメント抵抗を、
ラグ板を追加してケミコンから離し熱伝導を低減します。
10℃毎の温度上昇で寿命が半減しますからね。
つまり30℃の温度上昇では寿命が1/8になる訳です!
これでAC117V供給でヒーターには11.5Vが正常に印加されます。
B真空管V6(12AX7)を交換。
片側ユニットがエミ減で動作してませんでしたから。
これでRchは生き返るかな?
‥‥残念!雑音だけが生き返りました。
信号は出るようになりましたが未だゲイン不足。
根が深いようです。
修理 第3弾
回路ブロック毎に動作状況を確認
PHONE入力からTAPE OUT出力
 ゲイン Lch/Rch:41dB/41dB (1kHz)
 S/N   両チャンネルとも36dB、雑音主成分はハム
TAPE MONITOR入力からPRI OUT出力
 ゲイン Lch/Rch:22dB/10dB
EQ回路は動作してます。
ラインアンプ/TONE回路の故障のようですね。

各真空管の電圧をチェックするとグリッドに電圧が出ています。
カップリングコンデンサ絶縁不良ですね。
不良コンデンサだけでなく全部交換します。
でもバンブルビーではなく最新のフィルムコンデンサです。
必要数の確保が出来そうにないし、仮に入手出来ても不良症状が再発しますから。
<交換部品リスト>
Lch分です。回路番号が異なるRchも交換済みです。
交換途中では、誤部品、誤配線まで‥、参りました。
 C4 50μF ケミコン劣化、47μF16Vに交換
 C5 50μF ケミコン劣化、47μF16Vに交換
 C11 0.033μF 交換
 C12 0.1μF  既にVITAMIN Qに交換済み(誰かの前回修理にて?)
 C13 0.1μF 0.047μFが付いていた。0.1μFに交換
 C23 0.02μF 交換、470kΩと100kΩは短足で継がれていた為に同時に交換
 C27 0.47μF 既にVITAMIN Qに交換済み(誰かの前回修理にて?)
 C28 0.1μF 既にVITAMIN Qに交換済み(誰かの前回修理にて?)
 C30 0.01μF 0.018μFが付いていた。正規値に交換  C34 0.22μF 交換
 C35 0.22μF 既にVITAMIN Qに交換済み(誰かの前回修理にて?)
 C36 0.047μF 交換
 C37 0.047μF 交換
 C39 0.01μF 0.047μFが付いていた。しかも誤配線。正規品に交換
  GND接続のところが+Bに接続されていた。
  定数ミスで形状が大きくなり取り付け場所を誤ったと推定。
 C41 0.022μF 交換
 C43 0.1μF 既にVITAMIN Qに交換済み(誰かの前回修理にて?)
 C46 0.022μF 交換
 C47 0.47μF 既にVITAMIN Qに交換済み(誰かの前回修理にて?)

さあ動作チェックしましょ、今度は大丈夫でしょ!
‥雑音は減少しました。でも未だゲイン不良が直りません‥

修理 第4弾
状況整理
・不良箇所は、ラインアンプ/TONE回路。
・主要なコンデンサを交換してもゲイン不足は変わらない。

回路図を睨んで再点検を行いました。
@Low Boost VRが表示と逆に変化する。また高低全域に渡って影響する。
A誤配線を点検したが異常なし。
BところがLOW TRIM VRと基板の配線を切断すると全く信号が出なくなる。
 バイパスコンデンサ(C36 0.047μF)が切れている?
 信号経路を追うとジャンパーショートの隣接端子間に導通が無い!
 ジャンパー線で結ばれているはずの端子間抵抗は  無限大?テスターの故障かな。
 拡大鏡で良く観察すると両端子からの短い線が中央で半田付け。
 ピンセットでゆすると、ずるっと外れた。
 これだ!これがRch不良の原因だったのです。
つまりC36が無いので信号は常にLOW-TRIM VRを通過していた訳です。
端子間をショートし不良症状が完治しました!
なんと修理ミスの2次不良なのでした。
やれやれ‥、疲れました。

   性能測定 
 性能測定結果(L/R)電源電圧100V
 正常動作になったので主要な性能を測定します。

 ゲイン PHONO→TAPE OUT:41.0dB/41.2dB(1kHz)
     AUX→OUTPUT1:22.0dB/22.1dB(1kHz)
 THD+N PHONO→TAPE OUT:0.018%/0.017%(1kHz1V出力)
     AUX→OUTPUT1:0.037%/0.057%(1kHz 入力100mV)
 SN比  PHONO→TAPE OUT:48.5dB/46.0dB(1kHz 入力5mV)
     AUX→OUTPUT1:66.5dB/65.2dB(1kHz 入力100mV)
 残留雑音  PRI OUT:76dB/75dB(0.16mV/0.18mV)
 クロストーク(逆チャン出力1V)
  PHONO→TAPE OUT:
     54dB/55dB(100Hz)
     45dB/52dB(1kHz)
     39dB/31dB(10kHz)
  AUX→OUTPUT1:
     61dB/60dB(100Hz)
     48dB/47dB(1kHz)
     27dB/28dB(10kHz)
 許容入力(1kHz THD+N 1%)
  PHONO→TAPE OUT:210mV/195mV
  AUX→OUTPUT1:1980mV/2050mV

PHONO回路のRIAA偏差は、
ハイ上がり傾向ですが
±1.0dBには納まっています。
OLD-NABとRIAAの中間を
狙ったようにも見えます。



納品予定の前日に、注文したステップアップトランスが届きました。
「良かった、間に合った。」これが無ければ納品出来ぬところでしたから。
最後に内部を清掃して組立てます。
するとセレクタースイッチ裏から麺棒カスのコットン塊が出てきました!
そして低級な接点復活剤の残渣がシャーシ内部にべっとり付いてます‥。
欠品ビスは在庫で賄いましたがインチビスなんです。
なんとレベルが低い修理なんだ!
ところでメインボリュームには類似形状のツマミを取り付けました。
 
   修理完了と試聴
 オーナーより1週間で治してほしいと特急要請で大急ぎで修理しました。
 その為に交換部品は在庫品で賄うしかありません。
 部品選定には拘らぬ人で助かりました。そうでなければ間に合わなかったでしょう。
 修理完了の翌日、オーナー宅に設置して試聴確認を行いました。
 もちろん電圧調整用のトランス使って117Vです。
 ターンテーブルはガラード401、カートリッジ オルトフォンSPU-G、
 パワーアンプはMcintosh MC240、スピーカーはTANNOY GRFです。
 システムに設置して電源ON、ノイズはありません。
 カートリッジを落としてボリュームを上げると、ブラスが響き渡りました!
 オーナーも御機嫌です。「これだよ!このノリのよさ!」
 そうでしょう、瀕死だったC20が生き返って喜んでいるんですから‥。
 精一杯頑張って頂戴!と思って帰途に着きました。
 

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