ヤマナカ技研 寝屋川の真空管アンプ専門店



トップページ サービス内容・料金 問い合わせ 修理・再生の実績 プロフィール
 

  Bellair SX-280の修理

「Bellair SX-280から音が出ないので見てほしい。」
と電話が入りました。
はい、お任せください。必ず修理して生き返らせますよ。


 300Bシングルのステレオアンプです。
 オーナーが大切に持ち込んで来られました。
 Bellair製です、ステンレスシャーシが綺麗ですね。
 早速、電源を入れて動作確認しましたが両チャンネルとも出力が出ません。
 解りました症状は確認出来ましたので、お預かりして修理します。
底板を外して
内部確認します。
見える範囲では
不具合は無し!
でも手作り感が
満載です!
   修理開始 
回路図作成と点検
 まず回路図を現物から起こします。
 入力は東京光音製ボリュームを経由して396Aに入ります。
 次にCR結合回路で3極菅接続された310Aに引き継がれ
 グリッドチョークで接地された300Bに信号を送ります。
 特製出力トランスでインピーダンス変換されてスピーカー出力端子に。
 信号系統はそれでお終い、他には何もありません。
 負帰還はメジャーループもマイナーループもありません!
 ただ設計者の拘りと思われる音質改善用に追加された部品が沢山あります。
 そして電源回路は?
 300BはL/R独立した直流点火です。各個に3端子レギュレーターで安定化しています。
 整流は5U4G、5Hチョークに40uFケミコンでリップルを取って300Bに供給。
 396Aと310Aには直列ではなく並列にフィルターが入りモーターボーディング対処。
 ただし左右チャンネルで電源は共用です。
 マイナス電源はシリコンダイオードで片波整流です。
 次に、抵抗とコンデンサを実測します。
 極端な変化/劣化はありません。
 ケミコン類は、ほぼ表示どうりの容量です。
 結合コンデンサは容量値/絶縁抵抗とも問題無し。
 これで回路図が出来上がり、第一弾の点検が終わりました。

310A
 では電源から順番に動作を確認していきます。
 整流菅だけ挿入してスイッチON。電源関係の電圧は正常です。
 少々気になる点はありますが後で再確認します。
 次に初段396Aを挿入して点検、Lchは正常でG=25dBぐらい。
 Rchは、ゲインがマイナス?これは変だ。
 電源を切って調べるとRch 310Aのグリッド抵抗値が3Ω?
 なんとトップグリッドへの接続線がショートしてました。
 誘導防止にシールド線を使っているのですが芯線と外皮が握手してました。
 これを修理すると初段はL/Rとも正常になりました。
 次、2段目310Aの確認開始。
 310Aを挿入して電源ON。でも何時まで経ってもプレート電流が流れません?
 各部電圧は正常です、プレート電流が流れない以外は。
 そこで310Aを見るとヒーターが暗い?
 ソケット端子間にヒーター電圧は10V掛かっているのに?
 もう一度、球をよーく見るとゲッター鏡面が白い!
 空気漏れです、ただの電熱器になってました‥。
 ところで、もう一方の310Aは外観正常です。でもプレート電流が流れない。
 アンプから外して310A単体でエミッションを確認します。
 ‥‥ぜんぜん駄目!エミッションゼロ!ヒーターは点灯してるしショートテストもOK。
 よく解りませんが動作しません。とにかく全滅でした。
 (数日後に再確認するとゲッターが白化してました。やっぱり真空度低下でした)
 310Aを手配しなきゃ‥。WE製は高いだろうなー
 USSR製310Aです。
 WE製の25%価格でしたから‥
 もちろんオーナーの
 了解済みです!
 表側 Westinghouse
 裏側 USSR
 さすがロシア製だ!

修理2
310Aが入手出来たので2段目動作確認も終了、
そして最後に300Bを挿入して動作確認は完了です。
各部の電圧を再測定します。

やっぱりでした、マイナス電源整流直後のケミコン耐圧が不足です。
実測-120Vなのに、ケミコンは150uF100Vなんです!
電源だけのテストでも耐圧超過でしたが、アンプ部が動作すれば
耐圧範囲に納まるかもしれないと期待したのですが駄目でした。
問答無用でNICHICON製180uF250Vに交換しました。

修理3
動作確認の次は、性能測定します。
まず残留雑音 Lch:1.6mV、Rch:1.8mV
直熱菅の無帰還シングルでは標準的ですが一般的基準では少々大きいので、
もう少し下げましょう。

まず電源からのハムを確認します。
波高値P-Pにて約250mVでした。これが300Bと出力トランスで分圧されて
3mV程度が8Ω端子には出る筈です。(出力トランスの巻数比は21ですから)
実測値が少ないのは、300B入力にもハム雑音がある証拠ですし、
また雑音波形は正負対照ではないので指示値が異なる訳です。

対処案
@リップルフィルターのコンデンサ増量
A真空管の雑音選別
B初段、2段目のヒーターを直流点火
CGND配線変更

でも実際には@だけしか実施できません。
A選別する球がありません‥
B外部電源で試したけど効果が少ない
C音質変化が起こるのでやりたくない。
という訳で、100uF500Vをチョーク出力に追加し、
残留雑音がL/R=0.75mV/0.78mVに下がりました。
これでスピーカーから雑音が聞こえなくなりました。

再化成処理
無帰還のシンプル回路アンプに使用する場合、
ケミコン使用前には、再化成します。
漏電流と容量値が仕様どうりになってから取付けます。
納品後の使用途中で音が変わるのは嫌ですからね。
これは新品アンプがエージングしなきゃ本来の音が出ない一因です。


   性能測定 
 出力は約6Wです。
 真空管規格表では、300B動作例Eb=300V、Ib=60mAにて6.6W出力なので、
 出力トランス損失を考えると適切な動作をしています。
 またプレート損失は18Wですから最大定格の45%で長寿命が期待できそうです。
 左右で性能が異なるのは300Bの個体差で、Rch300Bのバイアスが5V程度浅い為でしょう。
 なお、このアンプの300Bは中国製です。
 測定上で気になるのは、チャンネルクロストークが1kHz以上で悪化している事です。
 個性的な音質要因のひとつかもしれません。
 クロストークを気にしていない配線配置でしたから‥。



   修理完了と試聴
 修理完了の連絡を入れると直ぐにオーナーが引き取りに来られました。
 一刻も早く聞きたいのだそうです。
 翌日に確認すると、帰宅後は終日聞いていたそうです。
 また機会があればWE310Aを入手して聞き比べて見たいそうですが、
 ロシア製でも、前よりずっと良くなったと感想を頂きました。
 満足して頂いて良かった。
 それにしてもWE製真空管の高価さには驚きます‥。
 
Copyright © 2016 ヤマナカ技研 All rights reserved.
by 無料ホームページ制作講座